業界研究:総合商社

就活生から圧倒的な人気を誇る大手総合商社。

特に5大商社(三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅)はブランド力もあり、給与水準も高いため難関大学出身者であっても入社が困難だと言われています。

双日と豊田通商を含めて7大商社とも言われます。

目次

総合商社の役割

総合商社は海外では例を見ない日本特有の業態で、『ラーメンからミサイルまで』と言われるほど多種多様な商品やサービスを扱っています。

今でこそ就活生のあこがれの的となっている総合商社ですが、かつては「商社冬の時代」や「商社不要論」などと唱えられ、何度も様々な危機を乗り越えてきた歴史があります。

現在の総合商社の役割を大別すると伝統的な「トレーディング」と「事業投資」の二つに分けることができます。

トレーディング

トレーディングとは、仲介業者として需要と供給を結びつける事業のことを言います。一般的に「商社」と聞いて皆さんがイメージをするのはトレーディングの方かと思います。

イメージをしやすくするため、下のような例を考えます。

鉄鋼メーカーAは原料から鉄を作るメーカーで、原料を調達する必要があります。一方で、鉄鉱石採掘会社Bは鉄鉱石を採掘する会社で、採掘した鉄鉱石を誰かに売りたいとします。

この際、総合商社は両社を仲介してマッチングさせ、売買を成立させます。また、これらの会社を仲介するだけではなく、流通や人的/金銭的サポートを行うこともあります。

この売買の手数料/マージンを取ることで総合商社は利益を得ています。

しかし、1980年代頃には多くのメーカーが自ら原材料の調達や販売網を確立するようになったため、このビジネスモデルだけで稼ぐことは難しくなってしまいました。1980年代に「商社冬の時代」や「商社不要論」などと唱えられたのはこのためです。

個人でもAmazonなどのインターネットサイトを通して簡単に輸出入ができてしまう時代になったので、仕方ないですね(笑

確かにトレーディングだけで稼ぐことは難しくなってしまいましたが、次に紹介する「事業投資」と組合わせてビジネスを創造することもあり、まだまだ現役のビジネスモデルです。

事業投資

事業投資とは、経営資源(ヒト、カネ、モノ、ノウハウ)を事業会社に投資することで対象企業の企業価値を向上させる事業のことを言います。総合商社はその収益の一部を配当などで得ることによって利益を得ています。

イメージをしやすくするため、下のような例を考えます。

鉄鉱石採掘会社Aは鉱山で鉄鉱石を採掘する会社で、鉄鋼メーカーBは鉄鉱石を加工して鋼を製造する会社です。

ただし、鉄鉱石採掘会社Aは様々なリスクを抱えています。例えば、「予想していたよりも少量の鉄鉱石しか採掘できない」というのが代表的なリスクとして挙げられます。

総合商社はそのような鉄鉱石採掘会社Aにリスクマネーを供給する役割を担っています。この事業で得られた利益の一部を還元してもらうことで総合商社は利益を得ています。

他にも、総合商社の役割として

  1. 鉄鉱石採掘の際の流通や人的/金銭的サポート
  2. 鉄鋼石採掘会社Aと鉄鋼メーカーBの売買の仲介
  3. 鉄鋼メーカーBの販売先の仲介

などが挙げられます。

1では鉄鉱石を運搬するための鉄道を作る、採掘者の居住環境を整える、などのサポートも含まれており、総合商社ならではの現地とのコネクションが生かされています。また2,3はトレーディング事業そのものです。

1980年代の総合商社冬の時代を乗り越えることができたのは、元々行っていたトレーディング事業のコネクションや知見を活かして、事業投資などの川上のビジネスを手掛けたためです。

鉄鋼や石油などの資源産業だけでなく、コンビニ(ローソン⇒三菱商事、ファミリーマート⇒伊藤忠商事)などの生活産業、インフラ産業、消費財産業、化学品産業など様々な産業に事業投資やトレーディングを行っています。

ちなみに、投資銀行との違いがよく聞かれますが、厳密な意味で投資を行っているのは総合商社で、投資銀行は投資を行っておりません。詳しくは他で述べます。

総合商社業界の話題

総合商社全体のトレンドとして、脱資源ビジネスが挙げられます。

特に、2016年3月期の決算では資源ビジネスの市況の悪化から、三菱商事/三井物産がそろって創業以来初の最終赤字を計上し、代わりに機械/食品/繊維などの非資源分野の利益が牽引した伊藤忠商事が総合商社No.1になったのは非常に大きなニュースになりました。

以前から資源ビジネス一辺倒の危険性については経営リスク上認識されていましたが、これを契機により非資源分野の重要性がより一層認識されるようになりました。

ただし、非資源分野で持続可能な形で利益を挙げることはなかなか難しいため、今後の総合商社業界全体の課題であるといえます。

日本を代表する大手総合商社

三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅、双日、豊田通商が挙げられます。ここでは、各社の概略のみ述べ、詳細については各リンクを参照してください。

三菱商事

言わずと知れた総合商社トップの超優良企業。資源分野(エネルギー/金属)のみならず、機械/化学品/生活産業/地球環境・インフラ/新産業金融など様々な分野も手掛けています。

ただし、資源分野の依存度が高いため、脱資源ビジネスが今後の課題。

「組織の三菱」と言われるように、組織だった年功序列の社風が根付いています。営業よりも管理が強いと言われています。

三井物産

資源分野に強みを持つ三井物産。資源分野の強みを活かしつつも、商品市況の影響が小さい安定収益型事業の拡充を経営目標に掲げています。

「人の三井」と言われるように、個を重視する自由闊達な社風が根付いています。管理よりも営業が強いと言われています。

住友商事

住友不動産などの堅実な経営に強みを持っています。

ただし、リスクをあまりとらない経営姿勢から、新規事業がなかなか出にくい傾向があります。

堅実な社風で、ややおっとりしている社員が多い印象。本社が勝どきにあり、やや都会の喧騒から少し離れていることも要因かもしれませんね。

伊藤忠商事

「非資源No.1」と言われるように、非資源分野において強みを持っています。2016年3月期の決算で総合商社1位に躍進したきっかけになりました。

伊藤忠食品、ファミリーマートやDoleの一部などを傘下に有します。

「野武士集団」と言われるように、一人一人の力を重視する社風です。積極的に挑戦する文化が根付いていると言われています。

丸紅

電力や小麦などの穀物に強みを持つ会社で、特に電力に関しては総合商社中トップの実績を誇っています。

実はもともと伊藤忠商事と同じルーツをもつ会社です。

資源分野に対する投資に失敗してしまい、5大商社の中で一番財務体質が悪いのが課題です。過去にはアジア通貨危機時に倒産の可能性が指摘された時もありました。

若手に比較的大きな裁量権が与えられており、若いうちから自由に活躍できる社風があります。

双日

航空産業が強みです。近年はIT系の強化にも力を入れています。

日商、岩井商店、日本綿花(ニチメン)が合併してできた会社です。

丸紅と同じく財務状況がやや悪い点が課題です。

他の総合商社に比べて体育会系気質な社風があります。

豊田通商

トヨタグループの商社機能から派生してできた会社です。そのため、トヨタグループからの仕事が多く、自動車関連産業に強みを持つのが特徴です。

良い意味でも悪い意味でもトヨタグループの業績と連動する傾向があります。

また、アフリカにも力を入れており、アフリカでのプレゼンスNo.1を目指しています。

各社の比較については『業界研究:総合商社(2)』に譲ります。